7205続ふるさとむかしむかし
稲城
続・ふるさとむかしむかし
菊池和美:聞き書き・写真
B5判並製 160ページ 定価:本体1,600円+税
ISBN978-4-86261-142-0 C0061
発行:2019年01月
内容
〜稲城・ふるさとむかしむかし〜
稲城市の梨農家100軒を取材した著者が、市井の人々の暮らし、人とのつながり、人生の聞き書きをまとめた一冊。稲城の明治、大正、昭和生まれの方々100人余に取材。
1部:『稲城の梨ものがたり』
2部:「人とひと、人と自然のつながりの中で」
※前書、ふるさとむかしむかし : 「稲城 人とひと、人と自然のつながりのなかで」に、
稲城の梨農家を取材した梨物語を加えて2部構成にした増補改訂版です。
目次
・続・ふるさとむかしむかし「稲城の梨ものがたり」
・ふるさとむかしむかし「人とひと、人と自然のつながりの中で」
はじめに
続・ふるさとむかしむかしの発刊に当たって
一回目の「ふるさとむかしむかし」を出版してからちょうど10年が経ちました。差し上げたり、買ってもらったりしていつの間にか私の手元には2冊残っただけになりました。でも幸せなことに、今も時々買いたいと言って私を訪ねて来てくれる方がいます。また発行したいと思いつつなかなか実現できずにいました。
そんな矢先、平成25年の春、稲城市農協の梨組合の方から、「創立130周年記念誌を作成するので梨農家100軒の聞き書きをお願いしたい」との話を頂きました。稲城の農業のためにお役に立てるならとお引き受けし、「稲城の梨百人百話」のコーナーを担当しました。力量不足で、いろいろご迷惑はおかけしましたが、平成27年1月に梨生産組合の皆さんの努力によって記念誌「130年の歩み・梨栽培と共に生きる」ができ上りました。
しかし残念なことに、発行数は200部余りとのことで、市民が買える数はありませんでした。もっと市民の人に稲城の梨農家さんのお話しを伝えたい、一緒に梨栽培の事を考えて欲しいと思いました。そこで再発行を検討していた「ふるさとむかしむかし」と梨農家さんのお話しを合わせて、「続・ふるさとむかしむかし」として出版することにしました。
梨農家さん全員のお話を掲載したかったのですが、紙面の都合上で30名を選びました。自身で独自に取材した方、私達の知らない時代を経験したご高齢の方、印象深いお話しをした下さった方を選び、字数制限で書けなかったお話しや、すでに梨栽培をやめて組合誌には載らなかった農家さんのお話しなども載せました。
「続・ふるさとむかしむかし」は1部を30名の聞き書き『稲城の梨ものがたり』とし、2部は「人とひと、人と自然のつながりの中で」としました。
稲城市の梨栽培の事
ここで稲城市の梨の事を少しご紹介しておきます。稲城市で梨栽培が発展したのは多摩川の沖積土壌が適していたこと、水田に栽培を広げたこと、川崎市の梨組合や近隣の農業試験場との連携が挙げられます。しかし何よりも一人ひとりの生産者の熱意と努力、そして組合の活動、さらに先達の方々の品種改良や技術研鑽の努力、それらが稲城の梨を支え、繁栄させてきたのです。特に販売方法の変遷についてはどの園でも大変なご苦労があったようです。大勢の方が市場出荷から直売、宅配までのご苦労話を教えてくれました。
明治17年、東長沼の梨生産者13名によって結成された共盟者に始まった梨組合はその後、矢野口、押立でも組織が作られ、やがて統一して活動するようになります。昭和初期には川崎、稲城から立川までの多摩川流域の梨組合は地域を超えた「多摩川梨」をブランドした「多摩川連合組合」を作って東京市場での地位を確立します。戦争で一時期衰退しますが戦後は再び連合体を結成して東京市場を席巻したといいます。しかし地方の産地が大量に東京市場に入るにつれて、多摩川梨は次第に市場から外れ連合体は解散してしまいます。
ところが稲城の生産者はそれに負けてはいませんでした。即売に出たり観光農園をしたりと絶え間ない努力をして時代を乗り切ってきたのです。
観光農園が下火になる頃、全国的には幸水や豊水が出現して市場を独占するようになりました。しかし稲城では先達の努力で加弥梨や清玉、吉野などの品種が育成されました。
特に進藤益延氏の育成した「稲城」は組合員への穂木の配布が実を結んで、主力品目となりました。またそれと共に地元での直売、地方発送が販売の主軸となって今に至っています。
最近の東京都と稲城市の梨栽培をデータで見ると、平成28年には東京都全体での日本梨の農業産出額は19億7千万でそのうち稲城の梨は8億4千万を占めています。稲城市全体では農業産出額12億円のうち梨が66%を占めています。今も多くの梨生産者が美味しい梨を市民に届けることを目標に日夜努力をしています。この本を読んだ読者の方に、梨栽培にまつわる様々な出来事ー戦争での衰退、市場での苦労、品種改良の努力、それから女性の頑張りなどーを知ってもらい、稲城の梨作りの未来を一緒に考えてもらえたら幸せです。
なお、梨の「稲城」の誕生については解明されていない部分はありますが、育成者の益延氏と生産者皆の苦労と熱意が大きく実を結んだと考えます。また、「旧ふるさとむかしむかし」のプロローグは終わりの頁に掲載させていただきました。
(菊池和美「はじめに」より)
著者プロフィール
■菊池和美(キクチ カズミ)
東京都清瀬市出身。東京理科大学薬学部卒。昭和52年より稲城市在住。4児の母。昭和60年、「子どもの遊び声の聞こえるまちに」が「毎日新聞郷土提言賞優秀賞」受賞。
昭和62年「稲城の自然と子どもを守る会」を結成。平成7年「第2回コカコーラ環境教育賞」を受賞。平成9年、早稲田大学法学部大学院に社会人入学。「南山の自然を守る会」の代表を経て現在、稲城農業ファンクラブで活動。薬剤師。平成12年より明治大学農学部博士課程に在籍。月刊武蔵野くろすとーくに「暮らしと屋号」連載中。
著書
『ふるさとむかしむかし』クロストーク、2008年
『南山の生きものたち写真集』共著、2009年
『地域農業ミュージアム』トーク出版、2011年
『星になりたかったハンミョウ』(里山の生き物たち・1)てらいんく、2013年
『ノウサギとヤマユリ』(里山の生き物たち・2)てらいんく、2014年
『森のお花見』(里山の生き物たち・3)てらいんく、2015年
稲城の梨生産組合130周年記念誌『梨栽培と共に生きる』で「稲城の梨百人百話」を担当、2015年
『梨下の太陽』(自費出版) 2015年
『真円の夢』(自費出版) 2016年
『約束の木』てらいんく、2017年