7306桜花を夢見て
桜花を夢見て (インホアをゆめみて)
ある満州育ちの物語
かわな 静:著
四六判並製 141ページ 本体1400円+税
ISBN 978-4-86261-165-9
発行:2021年4月
対象:小学校中学年~
★ご注文について
内容
満州はこれから発展する――。
そう信じて、スミ子と家族は海の向こうへわたった。
昭和のはじめ、異国の地ですごした少女時代の記憶。
昭和2年、警察官となった父について、鹿児島から満州に渡った少女・スミ子の物語。
2歳から過ごした満州の地で、スミ子はたくさんのことを経験した。
多国籍な街での暮らし、柳条湖事件で近づいた戦争の足音、日本人学校での日常、親元を離れての寮生活、ひとり旅であじわった恐怖、紀元2600年の祝賀式での大役、迫撃砲をうけた父の負傷、そして、社会人に……。
「これから発展する」といわれていた時代の満州で、多感な時期を過ごした少女の暮らしをていねいに描く。
目次
父の決心
遼陽の官舎
まさるを迎えに
柳条湖事件(満洲事変)の夜
ハルピンに住む
ハルピン桃山小学校へ転入
音楽のあふれる街
シェパードのタローのこと
鹿児島に帰って
満州にもどってわかったこと
まさるの自立
スミ子の反抗
昭和十二年のハルピンで
親友ができて
敷島高女に転校
ピアノを習う
張家口に帰省
兄の病気
家がない
紀元二千六百年の祝賀式
父の負傷
旅順師範学校に合格
「音楽のあふれる街」より
ハルピンの生活で、スミ子は、新しい発見をしました。
ハルピンでは、あちこちで、音楽が流れています。小さな楽器を鳴らしているだけではなく、明るい色の服装をした青年や女の人が、歌ったり、おどったりしているのです。それは、毎日、あちこちで、見かけました。
特別におどろいたことは、五、六人の少年たちがやってくると、そのうちのひとりが、ポケットからハーモニカを出し、とびはねたいようなかろやかな音楽を流します。すると、ほかの少年たちは、待っていましたと言わんばかりに、そろっておどりだします。それは、コサックダンスだそうです。
街の通りや広場で歌ったりおどったりするのは、南の遼陽では見かけませんでした。遼陽はハルピンより暖かく、明るい街ですけれど、ハルピンは、音楽のあふれる、にぎやかな街です。
スミ子のアパートは、ハルピンでもいちばん多くロシア人の住んでいる街でした。アパートの窓からは、ロシア人の店先などが見えました。
ロシア人は、黒パンを買いにきました。パン屋さんの店が、スミ子のアパートからよく見えました。
「黒パンを食べたい」と、スミ子は、せがみました。
日曜日になると、大勢のロシア人が黒パンを買いにくるのです。ロシア人は、まとめ買いをしていました。
「わたしたちも、日曜日には、黒パンを食べましょうか」
と、お母さんが賛成してくれました。
黒パンは、焼き立ては、やわらかくてほのかにあまいパンでした。
「黒パンには、カルパスだよ」
お父さんと、パンを買いにいくと、カルパスというソーセージも買いました。
カルパスには、ハチミツをつけて食べるのが、ロシア人のしきたりでしたので、吉田家でも、同じようにして食べました。
キタイスカヤ街の生活は、スミ子はとても気に入っていました。
著者プロフィール
■かわな 静(かわな しずか)
千葉県生まれ。早稲田大学文学部卒業。
創作「神さまのいる村―白間津大祭物語」(ひくまの出版)
「シイの実のひみつ」(けやき書房)
「くろねこカックン」(銀の鈴社)
詩集「花のごはん」(てらいんく)
評伝「青木繁とその情熱」(てらいんく)
「十四歳の『満州』 満蒙開拓青少年義勇軍 千葉中隊 鈴木弘一」(崙書房出版)
(社)日本児童文芸家協会会員
(社)日本児童文学者協会会員
(社)日本詩人クラブ会員